English version is here: https://youtu.be/Q_2CP9ckJBY
出演: Frauke(キャロリン・ルンドブラッド)
音楽:Hidetoshi Koizumi
脚本/撮影/編集/監督:長岡マイル
後援:ベイルマン・エステート財団
制作:長岡活動寫眞 / Typhoon Factory
撮影地 : フォーレ島/スウェーデン
第13回札幌国際短編映画祭オフィシャルセレクション作品。
あらすじ:バルト海に浮かぶ孤島フォーレ島。この島にある小さな家の中で死に瀕した少女の目前に悪魔が現れる。悪魔はダンスを踊りながら、少女を「賽の河原」へと導くのであった。
【長岡マイル】
映像作家。産土プロジェクト代表。1979年、千葉県四街道市生まれ。東京でフリーランスとして、様々な自主映画のカメラ・照明・美術スタッフ、映像ワークショップの主催、伝統工芸の紙加工職人の弟子、NPOのアートディレクター、シェアハウスの立ち上げや運営、環境系映像会社のクリエイティブディレクター等として働く。2010年徳島県神山町へ移住。”長岡活動寫眞”を立ち上げ独立。2017年3月より両親を呼び寄せ佐那河内村の山の上に居を移す。四国を拠点に全国を回りながらドキュメンタリー映像、広告映像を広く制作している。
【Production Note】
2017年の9月1日、19歳の時に行って以来、19年ぶりとなるスウェーデンに向かった。ストックホルムで小さなプロペラ機に乗り継ぐ。目的地はバルト海に浮かぶ、フォーレという島。ここに映画史に燦然と輝く巨匠、イングマール・ベルイマンが40年過ごした家がある。舞踏家フラウケと僕は、ベルイマンがここで他界した後、彼の住まいや図書室、別邸、創作のための家などを芸術を志す者に貸し出すアーティスト・イン・レジデンスに応募し、かなりの倍率を奇跡的にすり抜け2週間の滞在を許されたのであった。
この島の海岸線には多くのバイキングの墓があり、聖地だったのではないかと思わせる空気がある。またとても大きく奇怪な巨石ラウクの群れは、地獄のような様相にも見えた。僕らはゲストハウスを借り受け、そこで暮らしながらロケハンをして周り、どんな物語が作れるかを探した。そして実際に、僕はここを「あの世」に見立てることにした。
中庭を隔ててすぐ目の前にあるベルイマンの家には、僕らはいつでも自由に入ることができた。ここは一般公開はされておらず、セキュリティーはかなり厳しい。部屋を荒らさないような細心の注意も求められる。数億をかけたという蔵書のある立派すぎる図書館やVHSビデオの群れ。ベルイマンが客を迎え座ったその椅子に座り、仕事をこなした椅子に座り、眺めたであろう眼前の松林と海岸とを見た。今まで対して何も意識もしてこなかった作家であったが、無言のレクチャーをたくさん受けた気がした。この家は、まったくといっていいほどノイズがなかった。この島には商店街と形容すべきものはなにもない。そしてここは他の集落からも遠く離れた海岸沿いにある。ただ波音のみが聞こえた。ベルイマンが生きていた時と同じ環境にしたいという財団の意思により、電話もなければネットもない。
意外なことに、この素晴らしい石と木でできた家でベルイマンは、彼が「デーモン」と呼ぶあらゆるものに怯えながら40年間暮らしていたのだという。マジックで書いたのであろう走り書きが残されていた。「自分はキャリアを築いたが、孤独に震えている」「恐怖、恐怖、恐怖」などと。形容すべき言葉が見つからない。
最初の一週間はロケハンとスクリプト作りに費やした。天候は半袖で行った初日が嘘のように二日目から一気に冬めいてしまい、車ごとフェリーに乗って海を渡り、2時間ほど走ったところにあるゴトランド島にある救世軍のリサイクルショップで、冬の装いを買いそろえた。
僕らは古い観光パンフレットにのみ載っていた難破船の写真に注目した。それを目指そうとするが、どこだかわからない。人に聞いてみるもラチがあかない。だが方々を探し回り、かなり長い距離を歩いた先に、その難破船はそのままの状態で海にうちすてられていた。その船には「Fortuna」との船名が書いてあった。 Fortuna/フォルトゥナとは、ギリシア神話の女神である。
次の一週間を撮影にあてる。ほとんどは朝のマジックアワーで行った。出演者と二人きりで、ロケ地を回って、撮影する。どうやったらいいかは、目の前の景色や被写体や空気や音が教えてくれる。それ以外に解はないのだ。出会ったものや感じたことたちは、不思議に符合しはじめ、一つの物語を導き出す。それがこの作品である。
僕らは何かをベルイマンに教わったのだと思う。様々なことを感じ、様々なことを思った。撮ったものはその僅かな断片でしかない。この島の亡霊はいくつかの小さな怪奇現象を僕らの眼前に提示しながら、こう言っていた。「ただ作るのだ、物語を」と。
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