【ワシントン=住井亨介】新型コロナウイルス感染者を乗せ、9日に米西部カリフォルニア州サンフランシスコ近郊のオークランド港に接岸した米クルーズ船「グランド・プリンセス」。米当局などが乗客の早期下船に踏み切る決断をした背景には、船上での隔離を続けて感染が拡大した日本の教訓がある。
米政権は当初、大勢の乗客を隔離する施設の確保が難しいことなどを理由に早期下船には消極的な姿勢を示していた。トランプ大統領は6日に米疾病対策センター(CDC)を視察した際、「船内に留めるべきだと思う」と述べていた。
野党・民主党でも、乗客の隔離先となる空軍基地が立地するテキサス州選出のカストロ下院議員がツイッターに「われわれには市中感染に対応するための検査キットさえない」と投稿し、乗客の移送に不満を表明していた。
だが、米国内では日本でのクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船上隔離に批判的な報道が相次いでいただけに、姉妹船のグランド・プリンセスでも21人の集団感染が発覚したことが大きく作用した。
グランド・プリンセスの船会社幹部は7日の電話記者会見で、「日本での経験から学んだ教訓を生かしている」と述べたうえで、日本当局からも情報提供を受けていることを明かし、下船判断の基となったことをにじませた。
クルーズ旅行は乗客・乗員が同じ空間に長期間にわたって滞在するだけに、いったん感染が起こると拡大しやすい環境といえる。特に乗客は現役を引退した高齢者の比率が高いため、持病を抱えているケースが多い。同船で最初の発症者とみられ、下船後に体調を崩して死亡した高齢男性にも持病があった。
日本では船内で14日間の経過観察後に下船を開始したが、閉塞(へいそく)空間で感染拡大を防げなかった。米国では感染以外の健康状態の悪化など他のリスクを考慮し、早期下船という選択肢に傾いたものとみられる。
一方、クルーズ船での感染拡大が相次いだことでクルーズ旅行への風当たりは強まり、予約は激減。運航中止も相次いでいる。米国務省は8日、渡航情報を更新し、米国民にクルーズ旅行を自粛するよう勧告した。ペンス副大統領も7日、クルーズ業界の幹部との面談後、クルーズ搭乗時に検査を強化することなど打ち出した。
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