新型コロナウイルスの影響で観光業が落ち込む中、ある取り組みによって観光客が増えた町があります。北海道南部の福島町です。もともと観光資源が乏しかった町の起死回生の秘策とは?
乗客:「すごくない?」
目の前に広がる海に歓声を上げる観光客。海は時にはブルー、時にはエメラルドグリーンと表情を変えていきます。北海道南部の福島町、岩部地区をめぐるクルーズです。
岩部クルーズガイド 平野 松寿さん:「ここは昔から『龍の爪痕』と呼ばれている場所です」
乗客:「へぇ~」
ガイドを務めるのは平野松寿さん。波や風が作り上げた奇岩や海に迫る断崖絶壁に、乗客の眼がくぎ付けになります。そしてヘルメットをかぶり船が進んだ先は…。
乗客:「すご~い!」
岩部クルーズ 平野 松寿さん:「昔から神聖な空間だとしてむやみに入らなかったそうです」
青の洞窟です。高さ3.5メートル、幅7.5メートル、奥行き80メートル。神秘的なこの空間が、約1時間半のクルーズのクライマックスです。
乗客:「ちゃんと青くて、洞窟も良かったし楽しかった」
乗客:「テンション上がりました」
乗客:「いろんな方におすすめしようねと話しました」
クルーズを運営するのは町が出資する第3セクターです。岩部地区はかつて漁業で栄えましたが、今は2世帯が暮らすのみで、過疎が進んでいます。
2019年、本格的にクルーズ船の営業を始め、目標の2倍以上の年間1000人が乗船しました。2020年はさらに多くの人にと意気込んでいたところ…。
岩部クルーズ 平野 松寿さん:「4月、5月、6月の道外の客が100%キャンセルになった」
新型コロナウイルスの影響で、客がばったりと途絶えたのです。4月と5月の2か月間は運行を休止しました。
せっかく根付きそうな観光資源がなくなってしまいかねない。そこで町はある決断をしました。それは…。
岩部クルーズ 平野 松寿さん:「6月は思い切って完全無料にした。2日で全便予約が埋まった」
大人3000円の乗船料を6月限定で無料にしたのです。その効果は抜群で、当初ゼロだった客が350人にまで増加しました。さらに町は7月にも新たなキャンペーンを打ちました。
福島町 産業課 小栗 祐士郎さん:「キャッチフレーズが『福島町がおごります』」
町がおごる?いったい何を?観光客が増えた驚きの戦略とは?
観光客の落ち込みに悩む北海道福島町が、クルーズ船の乗船料を無料にする試みに続き打ち出したキャンペーンは…。
福島町 産業課 小栗 祐士郎さん:「キャッチフレーズが『福島町がおごります』。特産品をおごり、さらに昼食として、アワビカレー」
3000円の乗船料を客に負担してもらう代わりに、それと同額の町特産の海産物などをプレゼント。さらに1500円相当のアワビカレーを町内の飲食店でふるまうというものです。
それが、こちら!シーフードカレーに蒸しアワビが2つ、揚げたアワビが1つ入っています。7月のキャンペーン期間中、約400食が提供されました。
水上 孝一郎 記者:「アワビがプリっとしていておいしいです。口の中に海の香りが広がります」
2019年度、福島町を訪れた観光客は年間約8万9000人。桜で有名な隣町の松前町の5分の1にも及びません。
何とか観光客を増やして町を活性化させたい。そんな福島町の戦略を後押しする施設が稼働しました。
福島町 産業課 山内 繁樹さん:「養殖アワビを50ミリくらいの大きさで出荷できる」
アワビの陸上養殖施設です。年間8万個のアワビを1年を通して安く供給できます。このアワビを使ってカレー以外にも新たなご当地グルメを作ろうという動きが出ています。
こちらのペンションでは刺身の他に、アワビを地元でとれた山菜と煮たメニューなどを考えています。
ペンション鶴 鶴間 恵美子さん:「フライにしたらおいしい。バター焼きもおいしい。私たち(飲食)業者が頑張らないと」
クルーズ船から始まった福島町の観光客増加計画は町全体に広がってきました。しかし、まだ課題はあります。
岩部クルーズ 平野 松寿さん:「ただクルーズを楽しんで福島町から帰ってしまうのではなく、何かしら滞在して楽しんでいただける仕組み作りを町と進めていきたい」
コロナ禍を逆手に取った福島町の戦略。今後の動きが注目されます。
コメント